データ砂漠型 — 記録が「散らばっている」会社と「残っていない」会社は、最初の一手が違う
今井 宣聡代表取締役
2026-10-05 / AI導入・定着
AI向きの課題です。ただ、AIに学ばせる材料がまだありません。
無料AI定着診断でデータ砂漠型と出ると、結果画面の型名の下にこの一文が表示されます。本記事では、後半の「材料がまだありません」を、記録が散らばっている状態と残っていない状態に分けます。前半の「AI向きの課題です」をどう読むかも書き足します。
読者は、この型と出た会社の方と、記録が紙やExcelに散らばっていて、何から手を付けるか決めかねている会社の方です。記録を残してこなかった人を問う記事ではありません。扱うのは、残る場所と残す手間が業務の中に用意されているかどうかです。
砂漠という名前と、画面に並ぶ3行
結果画面では、冒頭の一文に続いて「この型で起きがちなこと」が3行出ます。
- 業務のやり方が「あの人の頭の中」に入っている
- 記録が紙・バラバラのExcel・個人フォルダに散在している
- 過去のデータを探すだけでひと仕事になる
1行めは、やり方が人の中にあって、書かれていない状態です。2行めと3行めは、書かれたものがどこかにはあって、場所がばらばらな状態です。この2つは別の状態です。
残り7つの型と見比べたい方は、「入れたのに使われない」AIの8つの詰まり方をどうぞ。
「散らばっている」と「残っていない」は、別の状態
見分ける問いは1つです。対象の業務を1つ決めて、先月の1件を確かめるとしたら、どこに当たりますか。
| 状態 | 先月の1件を確かめるとき | 診断の記録の問いでの答え | データ砂漠型と出るか |
|---|---|---|---|
| 散らばっている | 時間はかかるが、探せば出てくる | 紙やExcelに散在している | 出ない |
| 頭の中にある | 探しても出てこないが、人に聞けば分かる | 担当者の頭の中にある | 出ることがある |
| どこにもない | 探しても、聞いても分からない | ほとんど残っていない | 出ることがある |
以下、下の2つ(頭の中にある/どこにもない)をまとめて「残っていない」と呼びます。
記録の問いの選択肢は4つで、表にない1つは「デジタルで蓄積されている」です。こちらは本記事では扱いません。業務ごとに状態が違う会社は、1つの業務に絞って見てください。
診断で記録について「紙やExcelに散在している」と答えた場合、結果はデータ砂漠型になりません(「デジタルで蓄積されている」も同じです)。この型と出るのは「担当者の頭の中にある」か「ほとんど残っていない」と答えた場合に限られます。その2つを選んでも、ほかの2つの条件との兼ね合いで別の結果になることがあります。振り分けの条件はその業務、本当にAIですか — AIが効く3つの条件と、最初の90日の順番の表のとおりです。
先の3行のうち2行めと3行めに覚えがあり、探せば出てくる会社は、表のいちばん上にあたります。砂漠というより、水はあるが汲みに行く場所が遠い状態です。後で出てくる90日の手2から読んでいただいて構いません。
2つを分けるのは、作業の向きが逆だからです。散らばっている記録を揃えるのは過去に向かう作業で、範囲を決めれば終わりがあります。残っていない記録を残すのはこれから先に向かう作業で、終わりがなく、習慣になるかどうかで決まります。どちらも「データがない」の一言で始めると、過去の整備に予算が付き、残す仕組みが手付かずになる、と私たちは見ています。
「AI向きの課題です」は、記録以外の2つを保証していない
一文の前半にも、読み方があります。この型と出た画面でも、手順の型や誤りの許容度の答えが低いことがあります。「AI向きの課題です」は、残り2つの条件が高い水準にあることまで確かめた結果ではありません。
記録と残り2つは別々に見てください。手順が毎回違う業務で記録だけを残しても、何を残せば次に使えるのかが決まりません。記録の形は手順の型が決める、というのが私たちの見方です。手順の答えも低かったなら、残す仕組みと一緒に、手順を半分でも決めることを勧めます。
画面で確かめる場所は、6軸のレーダーのうち2本です。
結果画面のレーダーで、「データの蓄積」と「業務の型」の2本だけを見比べてください。 「業務の型」は、手順の型と誤りの許容度をまとめた軸です。この型と出た画面では、「業務の型」が「データの蓄積」より短くなることはありません。ただ、2本が同じ長さで並ぶことはあります。「業務の型」のほうも短いなら、記録だけ整えても足りないという手がかりです。13問・約3分の無料AI定着診断では、レーダーに軸ごとの%も出ます。
砂漠で足を取られやすい、3つの落とし穴
ここからの内容は結果画面には出ません。メールアドレスを入力し、同意いただいた方に届く詳細レポートに入れてあります。まず落とし穴の3つです。
- データがないままAIツールを試して「使えない」と結論づける
- 整備を一気に全部やろうとして挫折する
- 記録を残す習慣づくりを後回しにする
1つめには、試す前に「何を渡したか」を1行書いておくことを勧めます。書いてあれば、結論を「AIは使えない」ではなく「この材料では足りなかった」と書けます。
2つめは、散らばっている会社で起きやすい、と私たちは見ています。揃える対象が目に見えるぶん、全部に手を広げたくなります。
3つめは、残っていない会社で重くなる、と見ています。書かれた過去が少ないので、ここを後回しにすると、何も溜まっていきません。
「残す」が先、「揃える」が後 — 90日の3手
レポートには、90日の3手が次の並びで載っています。選んだ経営課題ごとの打ち手の考え方も入ります。
- AI化したい業務の記録を「残す仕組み」を先に作る
- 散在した過去データのうち、使う分だけ整備する
- データが溜まった領域から、小さくAI化を試す
手1が扱うのはこれから生まれる記録、手2が扱うのは過去の記録です。残す仕組みがないまま過去を揃えても、揃えた翌日から、新しい記録がまた別の場所に生まれます。私たちが「残す」を先に置いたのは、この見立てによります。残っていない会社は手1が本体です。散らばっている会社は手2から効きやすいと見ていますが、手1は飛ばせません。
手1 — AI化したい業務の記録を「残す仕組み」を先に作る
前提は、「AI化したい業務」を1つに決めることです。
残す仕組みは、新しい入力作業を足すことではありません。業務の流れの中で、やれば残る形にすることです。決めるのは次の3点。
- どこに — 場所を1つにする
- 何を — 結果だけでなく、判断の理由を1行
- いつ — 後でまとめてではなく、その場で
人に聞けば分かる会社は、聞ける相手がいるうちに「理由を1行」から始めるのがよい、と私たちは考えています。
それでも、記録は現場にとって増える負担になりえます。見積もり方は社長だけ号砲型 — 号令はかけた。現場が動かないのは、動く理由がないからに書きました。
なお、ここで言う材料は、AIのモデルに追加で学習させるデータだけを指していません。答えを出すたびに手元の記録を参照させる使い方の材料も含みます。どちらの使い方でも、記録が残っていなければ始まりません。
残る形を、いま使っている業務システムの中に作り込む必要がある場合は、AI受託開発が選択肢になります。業務自動化では、いまの仕事の流れを崩さずに組み込みます。効果が見込めないと分かったときは、その時点で正直にお伝えします。外に開発を頼む前に、発注側で決めておくことは、AI開発を依頼する前に、発注側が決めておく5つのことに書きました。
手2 — 散在した過去データのうち、使う分だけ整備する
「使う分」は、手1で決めた業務に関係するものだけです。新しいものから手を付け、全部は対象にしません。
残っていない会社は、この手が薄くなります。書かれた過去がないなら、手1の記録が溜まるのを待ってください。
この型と出ていない、散らばっている会社は、ここが入口です。ただし、手1の「どこに」だけは先に決めてください。揃えたそばから新しい記録が別の場所に生まれるのを防げます。
手3 — データが溜まった領域から、小さくAI化を試す
「溜まった」は件数では決まりません。私たちの目安は、いまのやり方と比べられるだけの実例が手元にあるか、です。比べる相手を決めずに試すとどうなるかは、PoC観覧車型 — 降りる条件と、降りた後の担い手を先に決めるに譲ります。
どの業務の記録から残すかは、部署をまたぐ決め事になります。この順番決めを社外と一緒に進めたいときの窓口が、AI導入支援です。
印が第2段に付いていない画面の読み方
この型と出た画面では、「詰まりはここ」の印は、3段のバーのうちいちばん短い段(同じ長さなら上の段)に付きます。記録の話で決まった型でも、印は第1段(課題の解像度)や第3段(実行の土台)に付くことがあり、第2段(打ち手の適合)のバーが3本のなかでいちばん長いこともあります。
私たちは、型名と印を、別の問いへの答えとして並べて読むことを勧めます。この型では、型名は何が足りないか(材料)、印は3段のうちどこがいちばん低いか、です。印が第1段なら、手1の「AI化したい業務」を1つに決めるところから。印が第3段なら、残す仕組みに担当と見直しの場を付けるところから。印が第2段なら、そのまま手1から入ります。どれも手1の中のどこから入るかの話で、残す仕組みを後に回すという意味ではありません。
この型の画面で印が第1段か第3段に付いているなら、ほかの答えが同じまま記録の答えだけが「紙やExcelに散在している」か「デジタルで蓄積されている」に上がっても、印は同じ段に残るか、印そのものが出なくなるかのどちらかです。記録を残し始めた後に向き合う場所が、いまの画面にもう出ている、と読めます。
印が付く段の決まり方の全体は、道具先行型 — ツールは入れた。使われないのは、目的が決まっていないからにあります。
記録が残り始めたら、同じ業務のこととして、もう一度13問に答えてください。 実態が変わって、記録の答えが「紙やExcelに散在している」か「デジタルで蓄積されている」になれば、ほかの答えが同じでも、結果はデータ砂漠型ではなくなります。その先でどの型と出るかは、ほかの答えしだいで6つの型に分かれるので、この記事では先回りして書けません。2回めの無料AI定着診断は、砂漠の先の地図を受け取る回になります。
量より先に、残る仕組み
私たちは、データ砂漠型の詰まりを、データの量よりも、記録が残る仕組みが業務の中にないことに見ています。順番は、対象の業務を1つ決めてやれば残る形を作る、過去の記録は使う分だけ揃える、比べられるだけ溜まった領域から小さく試す、です。
今日のうちに、先月の1件を確かめてみてください。探すのか、聞くのか、どちらでも分からないのか。そこまで分かったら、無料AI定着診断で、記録と、残り2つをまとめた「業務の型」を並べて見られます。残す仕組みをいまの業務システムの中に作る段階なら、無料相談でどの業務から始めるかを一緒に決めます。
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